10年間未解決だった不動産遺産分割協議を、弁護士のアンケート調査で円満解決した事例

事案概要
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依頼者
- 70代・女性(被相続人の長女)
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被相続人
- 父親
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相手方
- 弟(60代)、弟(60代)
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遺産
- 不動産(宅地と建物)
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争点
- 不動産の処分および分割方法に関する相続人全員の意思不一致(全員が不動産を欲しがらない状況と聞いていた)。
相談に至った経緯
父親が亡くなり相続が発生したが、遺産は不動産のみであり、預貯金などの金融資産はほとんどなかった。相続人である長女(依頼者)及び弟2名がこの不動産を相続することに前向きではなかった。依頼者である長女は、「地元に戻ることは無いので、不動産はいらない」と考え、次男は「固定資産税の負担が発生するから不動産は欲しくない」と主張していた。また、現在その不動産に住んでいる3男も、将来的な解体費用が高額になる可能性を懸念し、「不動産は相続したくない」という意向であった。このように、相続人全員が不動産の取得を望まなかったため、相続発生からすでに10年が経過しているにもかかわらず、遺産分割協議は全く進展せず、決着がついていない状況であった。この膠着状態を打開するため、依頼者が当事務所に相談した。
弁護士の対応
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相続人の意向把握のためのアンケート調査
- 長期にわたり協議が進まなかった原因が、相続人それぞれの具体的な意向が不明瞭な点にあると考え、弁護士が相続人弟2人に対し、遺産の分割方法や不動産の取り扱いに関するアンケートを実施した。
- 「不動産をどうしたいか」「他に希望する分割方法はあるか」といった具体的な項目を設け、各相続人の真意と優先順位を明確化することを試みた。
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アンケート結果に基づく意思確認と提案
- アンケートの結果、3男が「不動産を相続しても良い」という意向を明確に示した。これは、これまで3男も不動産の取得を拒んでいると依頼者から繰り返し聞いていたので意外な結果であった。
- この明確な意思表示を受け、弁護士は3男が不動産を相続する具体的なスキームを提案し、他の相続人にもその内容を説明した。
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迅速な遺産分割協議の成立と手続き完了
- 3男の明確な意思表示と弁護士による具体的な提案により、これまで進まなかった遺産分割協議が劇的に動き出した。
- 相続人全員が3男の不動産相続に同意し、驚くほどスムーズに遺産分割が完了した。不動産の名義変更などの手続きも滞りなく行った。
事件のポイント
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弁護士によるアンケート調査の有効性
長期間膠着していた遺産分割協議において、弁護士が第三者として介入し、相続人一人ひとりの意向を客観的なアンケート形式で把握したことが、解決への突破口を開いた。相続人同士では、それまでの感情的な対立があり、こじれていたようであるが、弁護士が正面から、意向をたずねたことで本音を引き出すことになり、アンケートは非常に有効な手段であった。
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未解決案件の早期解決
相続発生から10年もの間未解決だった遺産分割協議が、弁護士のわずかな介入で1ヶ月のうちにスムーズに解決したことは、専門家によるアプローチの重要性を示すものである。
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不動産のみの遺産における解決策
本件のように不動産のみが遺産である場合、売却や共有といった方法だけでなく、相続人の一人が単独で相続し、その後の管理や処分について責任を持つという選択肢も、アンケートによって明確化されたことでスムーズに実現できたのである。

■ 昭和44年 山口県立大嶺高等学校卒業
■ 昭和48年 神奈川大学法学部卒業
■ 昭和50年 株式会社判例時報社入社
■ 昭和53年 司法試験合格
■ 昭和54年 株式会社判例時報社退職
■ 昭和54年 司法研修所入所
■ 昭和56年 司法研修所卒業
■ 昭和56年 弁護士登録(埼玉弁護士会)
■ 昭和58年 山口県弁護士会に登録変更
■ 昭和58年 下関市に「若松敏幸法律事務所」開設
■ 平成17年 山口県弁護士会会長
■ 平成4年~現在日本弁護士連合会 弁護士業務改革委員会 委員