相続財産清算人制度を活用し、債権回収を成功させた事例

事案概要
依頼者(実質的な依頼者)
- 被相続人の従兄弟である(80歳近く、1,100万円の債権を有する債権者)。
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清算対象
- 相続放棄により宙に浮いた預金、株、土地(合計約1,080万円相当)である。
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争点
- 相続人が不存在となった後の遺産(財産)の管理・清算を通じた債権の回収。
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相談に至った経緯
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被相続人の相続人全員が相続放棄したことにより、遺産(相続財産)は一時的に宙に浮いた状態となり、相続人不存在の状態となった。被相続人の債権者である従兄弟(80歳近く)は、自身の債権(1,100万円)を回収できないままになるという危機に直面し、早期の債権回収を強く望んでいた。
このままでは遺産は、管理者のいない誰のものでもない、放置される状態になるために、弁護士は、債権者である従兄弟に対し、状況を報告し、債権回収のための解決策として相続財産清算人の選任申立てという方法があることを説明した。この申立ての提案は、当初相続放棄を依頼された被相続人のご子息からの引継ぎという形でアプローチしたものである。
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弁護士に対応
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相続財産清算人選任の申立て支援
- 弁護士は債権者である従兄弟の代理人として家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てた。これは、相続人が不存在の場合に、遺産を管理・清算し、債権者に弁済を行うための法的手続きである。
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相続財産の清算業務の実行
- 清算人が選任された後、預金や株の解約手続きは迅速に行われたが、土地の売却が難航した。
- 仲介の不動産業者からの提示額が高く、買い手も現れず、長期化する恐れがあったため、早期の処分を望む債権者の意向に反する状況であった。
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専門家連携による低額売却の実現
- 弁護士は清算人として、知人の税理士や不動産専門家と連携を取り、高額ではあるが、いつ売却できる状態か不明なリスクを排除し、早期に低額での売却を可能とするために、裁判所の売却許可が取れるように、新たな土地の評価額を策定し、かつ売却先を見つけることに尽力した。
- その結果、停滞していた売買は、迅速に不動産売却に成功した。
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債権回収の完了と共有持ち分の解消
- 清算手続きには最終的に1年を要したが、清算の結果得られた900万円の財産のうち、従兄弟は弁護士報酬を含めた800万円の配当を受けることができた。
- さらに、故人が他の相続人5名と共有していた土地の5分の1の持ち分についても、清算手続きの中で債権者を含む他の共有者が同一の割合で取得でき、相続人不存在のままの共有状態の解消まで実現した。
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事件のポイント
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債権回収のための相続財産清算人制度の戦略的活用
- 相続人が全員相続放棄した場合、債権者が自力で債権を回収することは極めて困難である。本件は、弁護士が債権者に対し、この制度の存在と利用方法を提案し、専門家が清算人として業務を遂行することで、債権者の利益を最大限に守るという結果を実現した成功事例である。
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不動産売却における付加価値の創出
- 清算人による不動産売却は、裁判所の許可が必要であり、手続きが硬直化しやすい。弁護士が専門的な知識とネットワークを駆使し、債権者の希望を踏まえて、届け出債権額を減額してでも早期の不動産売却により、迅速な清算手続きを実現したこと、さらには複雑な共有持ち分の解消まで行ったことは、清算業務における弁護士の総合的な解決力の高さを示すものである。
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この記事の執筆者

オーシャンズ若松法律事務所
代表弁護士
若松 敏幸
保有資格弁護士
専門分野生前対策、相続トラブル解決
経歴
■ 昭和44年 山口県立大嶺高等学校卒業
■ 昭和48年 神奈川大学法学部卒業
■ 昭和50年 株式会社判例時報社入社
■ 昭和53年 司法試験合格
■ 昭和54年 株式会社判例時報社退職
■ 昭和54年 司法研修所入所
■ 昭和56年 司法研修所卒業
■ 昭和56年 弁護士登録(埼玉弁護士会)
■ 昭和58年 山口県弁護士会に登録変更
■ 昭和58年 下関市に「若松敏幸法律事務所」開設
■ 平成17年 山口県弁護士会会長
■ 平成4年~現在日本弁護士連合会 弁護士業務改革委員会 委員



