債務超過の可能性を前に、手続きの簡便性から相続放棄を選択した事例

事案概要
依頼者
故人の相続人(被相続人のご子息)
被相続人
依頼者の父親である
債務
被相続人の従兄弟に対する借入金1,100万円
遺産
貯金・株・土地など合計約1,080万円
争点
- 債務超過の可能性がある場合の相続手続きの選択(限定承認か相続放棄か)。
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相談に至った経緯
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依頼者は父親の相続が発生したことを受け、財産調査を依頼した。その結果、遺産総額が約1,080万円、債務額が1,100万円と判明し、実質的な債務超過の可能性が高い状況であった。
弁護士は、依頼者に対し、限定承認の手続きを提案した。限定承認とは、「相続財産の範囲内でのみ債務を弁済し、それ以上の負債を負わない」という手続きであり、本件においては、負債を清算した後わずかながら残余財産を取得できる可能性があった。
しかし、依頼者は「これ以上、相続に関わりたくない」という意向が強く、限定承認の手続きの煩雑さや時間的な負担を嫌った。結果として、弁護士の提案を断り早期に相続から完全に手を引くことを選び、家庭裁判所にて相続放棄の手続きを依頼した。
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事件のポイント
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限定承認と相続放棄の選択と判断
- 限定承認は、債務の額が不明確な場合や、負債を清算した後に残余財産を期待できる場合に有効な手段である。しかし、手続きが複雑で相続人全員の協力が必要となるため、本件のように依頼者が手続きの簡便さと早期の解放を優先する場合、一切の権利義務から解放される相続放棄が選択されることとなる。
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相続人の意思を尊重した手続きの完遂
- 弁護士は依頼者の利益を考慮し限定承認を提案したが、最終的には「相続に関わりたくない」という依頼者の強い意向を尊重し、迅速に相続放棄を完了させた。依頼者の精神的負担の軽減を最優先した対応が求められた事例である
この記事の執筆者

オーシャンズ若松法律事務所
代表弁護士
若松 敏幸
保有資格弁護士
専門分野生前対策、相続トラブル解決
経歴
■ 昭和44年 山口県立大嶺高等学校卒業
■ 昭和48年 神奈川大学法学部卒業
■ 昭和50年 株式会社判例時報社入社
■ 昭和53年 司法試験合格
■ 昭和54年 株式会社判例時報社退職
■ 昭和54年 司法研修所入所
■ 昭和56年 司法研修所卒業
■ 昭和56年 弁護士登録(埼玉弁護士会)
■ 昭和58年 山口県弁護士会に登録変更
■ 昭和58年 下関市に「若松敏幸法律事務所」開設
■ 平成17年 山口県弁護士会会長
■ 平成4年~現在日本弁護士連合会 弁護士業務改革委員会 委員



